家庭教育運動

スポーツの競技力向上に必要な時間の使い方とは?鍵は集中力!

バットを構える少年

「スポーツで結果を出そうと思ったら、スポーツだけに集中させた方がいいのでは?」、「子どもの集中力がない」このようなお悩みはありませんでしょうか?

スポーツ心理学者が「集中」について、そしてスポーツの競技力向上に必要な時間の使い方について解説します。

「集中している」とはどういうことか?

「集中」、「集中力」これは日常的に色々な場面でよく使われる言葉の一つかと思います。
皆さんもお子さんに一度は「集中しなさい」と言ったことがあるのではないでしょうか?
しばしばメンタル・心理の問題として扱われることが多いように思います。

しかし、実は「集中」は心理学用語ではないのです。
心理学用語では何というかと言えば、「注意」と表現されます。
では、「集中している」、「集中していない」などと表現されるものはどういったことを表しているのでしょうか?

「集中している」とは「必要なものに注意を向けられた状態」と表現することができます。
自分のやるべきことがわかっていて、それを実際に行うためには何を考えたり、何を見れば良いのかがわかっている状態ですね。

一方で「集中していない」とは「不必要なものに注意を向けられた状態」と表現することができます。
具体的な例でご説明しましょう。

不必要なものに注意を向けられた具体例

小学校から帰って、宿題に取り掛かるも、なかなか集中できないお子さん。
親御さんから「集中しなさい」と言われて、自分でも集中しようとするが、うまくいかない時も多いのではないでしょうか。
勉強が手につかない子供
このような時に考えられることは、このお子さんは「集中していない」というよりも、宿題が終わった後に友達と遊ぶことが待ち遠しくて、未来に集中してしまっているのですね。
つまり不必要なものへの集中です。

もう一つ、スポーツ競技場面での具体例で考えてみましょう。
野球の試合中、守備でエラーをした選手が、その後もミスを続けてしまった時に、指導者など周りからの掛け声として最も良くあるのが「集中しろ!」などではないでしょうか。

この選手は本当に集中していないのでしょうか?
実はそんなことはありません。

この選手は「ミスをしてしまった」という過去の後悔にはとても集中しているのです!
しかし、それが「不必要な集中」であることは間違いないでしょう。

このような状態で「集中しろ!」と言われた選手はどうなるでしょうか?
そう、ますます「不必要な集中」を高めてしまう恐れもあるので、残念ながら逆効果になりかねないのです。

つまり、「集中している」、「集中していない」は注意を向ける先が「必要なもの」か「不必要なもの」かという違いであることが多く、実はどちらも心理状態としては、「集中している」と言えるのです。

となれば、大事なのは「良い集中」であり、それを心理学の表現でいえば「注意配分が適当な状態」を意味していると考えることができます。

注意配分の調節に必要なステップ

ここまでで「注意配分」が適当な状態がいわゆる「集中している」ということがわかりましたね。
そして、「集中力がある」というのは「必要なものに注意を向けることができる力がある」と言い換えることができると思います。
ということは必要なものが何かを自分がわかっている、ということが大事になると言えるでしょう。

そこで「良い集中」をするための注意配分の調節に必要なステップは以下になります。
例えば、バスケットのフリースローを入れるために必要な「良い集中」について考えてみましょう。

  1. 目標とする行動を達成するために必要なことを書き出す
  2. 【例】シュートを打つ前のルーティン、ボールの持ち具合、いつも通りのゴール(リング)を見る

  3. 目標とする行動を達成するために必要なことの配分を考えて円グラフに記入する(感覚でOK)
  4. 【例】ルーティン:50%、ボールの持ち具合:20%、いつも通りのゴール(リング)を見る:30%

  5. 不必要な注意になるものを書き出して知っておく
  6. 【例】観客、これを決めると逆転できるなどの計算

  7. 不必要な注意を向けやすくなる条件を考えて防ぎやすくする
  8. 【例】観客の中に知り合いやスカウトなど気になる存在がいるとき、自分のミスで失点した後

これに加えて時には5. 片付けることで不必要な注意を向けずに済むものは片付ける、というのもありますね。

例えば、宿題をしないといけないのに机の上に漫画やゲームが置いてあったら、それに目線がいって注意配分が乱れてしまいます。
これらを先に片付けることはとても大事ですね。

あとは6. 目に入ったものに注意がいってしまう特徴を理解して、視線をコントロールしながら、1. の必要なことを実行することですね。

子どもが先生と話をしていても、先生の後ろで友達が遊んでいたりして、それが目に入ると注意は目に入った友達にそれて、これでも注意配分は崩れてしまい、結果的に先生の話には「集中していない」ということになる訳です。

小さい頃に言われた「人の話を聞く時は人の目を見ましょう」というのは、注意配分を調節して良い集中をするのに大変理にかなっていると言えます。

注意配分で考えるタイムマネジメント

ここまで「集中している」とはどういうことか、「良い集中のための注意配分の調節」について解説してきました。
ここからはスポーツのパフォーマンス向上、そして実力を発揮するためにはどういった注意配分で時間を過ごすこと(タイムマネジメント)が大切なのかを解説していきます。

スポーツ以外の時間の使い方が大切

私は日頃、未来のアスリートやその保護者、指導者の皆様にアスリートのキャリア教育をテーマにお話をさせていただいています。
そこでは、スポーツ活動をしている以外の時間がとても大切であることをお伝えしています。
その中で具体的にスポーツと学業をどう両立するか?両立することで相乗効果が生まれるという、両立のメリットなどについてお伝えしています。

「スポーツ選手を目指すなら、時間は限られているし、スポーツという一つのことだけに集中していた方がいいのではないですか?」という考え方もあるでしょうし、そういったご質問をいただくこともありました。

私はスポーツメンタルトレーニング指導士として、パフォーマンス向上、そして実力発揮を目指すアスリートの皆さんに携わる仕事をしています。
その私がスポーツと学業の両立についてお伝えするのは「当然それが勝つために有効だからです」ということも最初にお伝えするように心がけています。

想定される事はあらかじめ注意配分に入れよう

「スポーツにだけ集中したいから他のことはしたくない」と選手自身が思うこともありますし、「スポーツにだけ集中させたい」と保護者や指導者が思うこともあるでしょう。

しかし、どれだけそう願っても実際にはそうはいかないのが現実ではないでしょうか。
スポーツ以外に小学校、中学校の義務教育期間だけでも、学校生活での日々の勉強や試験、行事があります。
大人になれば仕事をしながら競技をすることもありますし、結婚してお子さんがいらっしゃれば子育ての時間なども必要になってきます。
付せんとボールペン
このように「スポーツにだけ集中したい」と思う選手の生活にもスポーツ以外の多くの出来事や人が入り込んでくるのが、この社会で生きているということではないかと思います。
つまり、日頃から準備をせずに受け身で対応すると、注意配分が乱れることを意味します。

だからこそ、受け身になるのではなく、自ら積極的に自分の人生に入り込んでくるものを把握し、日頃から注意配分の中に入れて、日々の時間を過ごすことであらゆることへの良い集中ができるようになるのです。

具体例で見ていきましょう。

タイムマネジメントの具体例

学校での試験がありますね。
試験直前になって「嫌だな。競技だけやっていたい」といった考えにとらわれることは、不必要な集中であり、競技に取り組む際のベストな注意配分を崩すことになります。

また、試験勉強の時間が無くて、試験に間に合わなくなり、試験の結果も悪くなる可能性がありますね。
それで、補講を受けるなど、追加で時間が必要になれば、結果的には予定外にスポーツ活動の時間を減らしてしまうことになります。
これはテストという出来事への受け身な態度によって生じたことと言えます。

一方で、いつ試験があるのか、いつ試合があるのかなどのスケジュールをあらかじめ把握して、それまでの時間をどう過ごすか?と長期的に考え、さらに一日一日の時間をどう過ごすか?と短期的にも考える両方のタイムマネジメントをすることは常に良い集中をするための「注意配分の調節」になるのです。

先ほど書きました注意配分の調節に必要なステップの流れはいつも使えるものですが、それぞれのステップの内容はいつも同じではなく、たくさんのバージョンがあると思います。

不必要な集中を排除しよう

長期的、短期的なタイムマネジメントによって、注意配分の調節をしておくことで、スポーツをしている時間には不必要な集中である「勉強への不安や憂鬱な気持ち」を排除することができるのです。
同様に、勉強をしている時には「スポーツをしていたいのに」などといった不必要な集中を排除することができると言えるでしょう。

このように、注意配分の調節をして不必要な集中をしないで済むからこそ、本当の意味での良い集中ができるようになるということですね。

スポーツも学業も共に一生懸命に取り組むメリット

注意配分の調節というのは、メンタルトレーニングの一つでトップアスリートも実践しているものです。
トレーニングですから、定着するためには繰り返し行うことも重要になります。

スポーツの場面に限らず、学業に取り組むときにも、そして両立するためにも注意配分の調節を繰り返せば調節力が身についていくことになります。
これがいわゆる「集中力がある」ということですね。
スポーツと学業のパフォーマンス向上につながると言えます。

デュアルキャリアとは

これまでプロスポーツ選手やオリンピック選手といったトップアスリートになるためには「引退後のことなど考えずに、いまスポーツで結果を出すことだけに集中していれば良い」、「勉強している時間があればトレーニングをしていた方が良い」などといった考え方もありました。

しかしそれによって、スポーツと学業の両立ができていないことや、アスリートは社会性に欠けているといった課題も生じていました。

そのため、これからのアスリートに必要なキャリア形成の考え方は、スポーツ選手としてのキャリアだけを考えるのではなく、人としての包括的なキャリアを考えることであり、「デュアルキャリア」という考え方もその一つです。

日本スポーツ振興センターは「デュアルキャリアに関する調査研究」報告書(日本スポーツ振興センター,2014)のなかで「デュアルキャリア」とは、人の生涯をまず一本の「キャリア」と捉え、そこに「スポーツ選手のキャリア」というもう一本の軸を追加した「二重性がある状態」であると解釈されています。

つまり、スポーツ選手は人生のある一定期間「人としてのキャリア形成」と「スポーツ選手としてのキャリア形成」の両方を同時に取り組むことを意味しています。

まとめ

タイムマネジマントによって、スポーツ活動の時間とそれ以外の時間で常に良い集中をするための「注意配分の調節」ができれば、デュアルキャリアも実践できると思いますし、結果的にはスポーツ選手が最も望んでいるスポーツのパフォーマンス向上につながることになるのです。

この記事の筆者

筒井 香(つつい かおり)
(株)BorderLeSS 代表取締役兼CEO。
2015 年スポーツ⼼理学研究で博⼠号取得。

現在は、スポーツメンタルトレーニング指導⼠(スポーツ⼼理学会認定)として、また、アスリートキャリアアドバイザー(平成27〜29 年度スポーツ庁委託事業「スポーツキャリアサポート推進戦略」アスリートキャリアアドバイザー育成研修プログラム修了)として、アスリートのパフォーマンス向上とキャリア構築に携わっている。

また、スポーツを頑張る親の学び舎「スポスタ」では、心理学に基づく子どもの「キャリア育て」に関する理論や実践方法について、保護者の皆様に伝えている。
株式会社BorderLeSS
スポスタ

関連記事

あなたはこれまで何を学んできましたか?

学ぶというと学校での勉強が連想されますが、習い事や書籍で知識を得る事も立派な学びです。
人は学ぶ事で視野が広がり、人生の可能性が広がります。
ただ、何かを学びたい時、こういった思いを抱いた事はないでしょうか。

「もうすぐ受験だけど、効果的な勉強方法はないかな?」
「子どもに習い事をさせてみたいけれど、どんな習い事がいいかな?」

勉強はしたいけど、どうやって学んでよいかわからない。
お子さまに習い事させている方に聞いてみたいけど、身近に聞ける人がいない。
運良く周りに聞ける人がいればよいのですが、そうも言えないのが現実ではないでしょうか。

学ぶためには本人の努力が必要なものの、その原動力はやはり本人の意欲。
相談できる人がいないだけで、せっかく芽がでた学びの意欲を無くしてほしくないというのが、私たちの根底にある思いです。

そこで学びの芽を育むための情報を提供したいと考えた結果、私たちは当メディア「STUDYCLIP」を誕生させました。

「STUDYCLIP」は世の中に埋もれた学びにまつわる情報を切り抜いて提供しようという意味です。
当メディアがあなたの学びを通して、豊かな人生を送る一助になれば幸いです。